■Scutellinia scutellata (アラゲコベニチャワンタケ)

■ 2018年05月26日 撮影

これを堂々と掲載できるようになったのは進歩と言えるのではないでしょうか。 湿り気の有る腐朽材発生する小型の子嚢菌類「荒毛小紅茶椀茸」です。 非常に愛らしい外見でキノコ屋さんにも人気が有る種です。 ただ、ネット上にも多く写真が見られる種ですが、実はそんなに甘くないんですよね。 この同定も実は1つだけ自信のない点が有り、100%ではありません。

実は本種と思われていたキノコには複数種が混在していることが判明しました。 肉眼的に違いが有る種も有りますが、基本的には顕微鏡観察が必須となります。 このたび実際に顕微鏡観察を試薬を用いて行い、本種と同定できましたので無事掲載です。 子実体の見た目のみの観察では「アラゲコベニチャワンタケ属の1種」としか言えないので注意。


■ 2018年05月26日 撮影

子実体は幼菌から成菌への成長にともなって椀形から平らに開き、子実層面は橙色。 また外側に和名の通り剛毛が生えており、特に椀の縁部はまつ毛のように長く伸びます。 ただこれら外見的特徴は多少の色の差はあれどほぼ類似種も同じなので判断基準には弱いです。


■ 2018年05月26日 撮影

子実層の顕微鏡写真です。側糸は糸状でオレンジの色素を持ちますが先端部では無色になります。 先端部がやや膨らむのが特徴のようですね。


■ 2018年05月26日 撮影

子嚢胞子は楕円形で約19μm、より少し小さいくらいかな? 滑らかに見えますがこれはダウト。後日染色によって真の姿が判明します。


■ 2018年05月26日 撮影

メルツァー試薬には一切反応なし。偽アミロイドでもないみたいですね。


■ 2018年05月26日 撮影

子嚢菌類の胞子観察の強い味方、コットンブルーによる染色を行ってみました。 しかし全然染まりません。加熱もちゃんとしたんですが・・・。 本種の胞子の表面には特徴が有るので、それが見れると思っていたのですが、未熟だったのかな?


■ 2018年05月26日 撮影

何度か試して一応染まったのは染まったんですが、やはり表面は平滑に見えています。 子嚢胞子が成熟していないと判断して標本を一時保管、数日してから再確認することにしました。


■ 2018年05月26日 撮影

もう一つ確認したかったことが有ります。それは椀の外側に生える剛毛の基部の構造です。 実は本属菌を見分けるにあたって重要なのが先の胞子や側糸の観察とこの毛の根元なのです。 見れば基部が木の根のように分岐しているのが分かります。 これは本種が無印アラゲコベニであると判断するための重要な証拠になります。


■ 2018年05月26日 撮影

ちなみに材上にいっぱい出ていました。地上生は別種として良さそうです。

毒は無いようですが、食不適としておきましょう。念のため・・・。 食用になると言う情報も有るのですが、同時に何の味も香りも無いとのことなので食わなくて良いと思います。 と言うか子嚢菌類の中でもかなり軟質の部類なので、調理に耐えられない気がします。

■ 2018年05月29日 撮影

3日後、密閉容器の中で保管していた標本を再びコットンブルーで染色した後、顕微鏡観察を行いました。 すると明らかに数日前とは違った光景が目に飛び込んで来ました。


■ 2018年05月29日 撮影

表面に疣状突起が見られますが、かなり小型で辛うじて見える程度です。 一応イボが微細と言うのが本種の特徴だそうですが、微細と呼ぶには少し大きい気もします。 と言うのも海外のサイトでも2パターンの写真が同じ学名で紹介されてる傾向が有るんですよね。 なのでこの点だけは少し不安です。もしかすると今後不明種扱いになるかも知れません。
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