★Shimizuomyces paradoxa (サンチュウムシタケモドキ)

■ 2018年07月29日 撮影

茨城県で開催された第38回虫草祭。直前まで日照り続きで1日目は台風直撃で大荒れ。 ロクな冬虫夏草は出ないのではないか、そんな心配を吹き飛ばす激レア冬虫夏草が出ちゃいました。 和名は「山中虫茸擬」。ヤマガシュウサルトリイバラなどのシオデ属の植物の種子から発生します。 発見はHibagon氏、その後自分も近くで発見。閉会後の自主調査でも複数株発見されました。 「冬虫夏草の趣味を一生続けても出会えないかも」と言われるほどの激レア冬虫夏草です。

恐らく日本で見られる冬虫夏草の中でも最もレアで最も異質な生態を持つものの1つでしょう。 属名の「Simizuomyces」は当然あの故清水大典先生が発見したことによるもの。 また種小名の「paradoxa」は「珍しい、奇異な、説明のつかない」の意味で、本種のその生態を的確に表しています。 発生は不思議と東日本ばかりです。


■ 2018年07月29日 撮影

断面を作成してみると、基部に赤黒い球体が出てきました。これが宿主の植物の種子です。 本種は冬虫夏草のくせに虫の生体でも生成物でも、他の菌への重複寄生でもなく、ただの植物体に感染するのです。 これは地味にとんでもないことであり、冬虫夏草の理(ことわり)から外れた存在なのです。


■ 2018年07月30日 撮影

帰宅後にクリーニングしたものを白バック撮影してみました。 「イラガの繭から出たメタリジウム」と言われても信じてしまいそうになりますね。 って言うかまだそのほうが冬虫夏草的には不自然ではありませんからね。


■ 2018年07月30日 撮影

同じ角度で黒バック撮影です。 別の虫草祭参加者の方が発生地近辺でサルトリイバラを発見しているので、その種子ではないかと思われます。


■ 2018年07月30日 撮影

子実体は棍棒状で色違いのサナギタケと言った雰囲気。結実部と柄の境界はやや不明瞭。 柄は地下部では白いですが地上部は結実部よりやや濃色になります。 一見するとメタリジウム属菌のように見えなくもないですが、アチラが緑色系なのに対しコチラは黄色系で根本的に異なります。


■ 2018年07月30日 撮影

子嚢殻は埋生型で暗色の先端部がやや突出します。ここでも斜埋生型の子嚢殻を持つメタリジウム属との違いが見られますね。


■ 2018年07月30日 撮影

実はこの日、顕微鏡観察によって子嚢胞子を確認しようとしたのですが、自然噴出したはずなのにどれも未熟な胞子ばかり。 本種の子嚢胞子の特徴が全く見られなかったため、自然とスライドグラスに落ちるのを待つこととなりました。


■ 2018年07月31日 撮影

翌日、スライドグラス上に何かが落ちていたのでメルツァー試薬で染めた後に観察してみると、何と子嚢まで飛び出していました。


■ 2018年07月31日 撮影

分かりづらいので子嚢を単独で切り出してみました。長さは160μmと生態図鑑の表記よりも長いです。 ただこれはどうやら子嚢胞子が詰まっている部分より基部方向に胞子の詰まっていない細長い部分が有るためのように思われます。 この部分は単独で切り出さないと観察しづらく、先端の子嚢胞子が入った部分だけが子嚢に見えてしまうので。


■ 2018年07月31日 撮影

注目すべきはココ。子嚢細胞の先端に透明感の有る肥厚部が確認できることです。 これは冬虫夏草として進化してきた菌である証拠。 実際に本種はカイガラムシに感染するRegiocrella属菌に近縁であることが判明しています。 虫に感染するくせに子嚢に肥厚部を持たないウスキヒメヤドリバエタケとは対照的ですね。


■ 2018年07月31日 撮影

リベンジ成功!今回はしっかりと成熟した子嚢胞子が見れました!


■ 2018年07月31日 撮影

子嚢胞子は短い糸状で長さは50〜70μmで生態図鑑とほぼほぼ同じサイズでした。 また観察はしづらいですが、アルカリ処理したのちメルツァー試薬で染めると隔壁が存在することが分かります。 隔壁の数は不定で3〜7個とされていますが、当方では4〜6個が多いように思われました。 また一番上の胞子がそうですが、本種の子嚢胞子は中央の細胞が膨らむ現象が観察されるそうです。

食毒も薬効も不明ですが、正直そんなの考えることすら失礼と言うレベルのレア菌です。 とにかく発見例自体が非常に少ないため、もし見付けたらどこかしらに報告したほうが良いかも知れませんね。

■ 2018年07月29日 撮影

Hibagon氏が最初に発見したもの。最初は色合い的にメタリジウムかと思ったそうです。 別の沢に居た私のトコロに興奮したHiba氏が「凄いものが見付かった」とニコニコしながら近付いてきたのが印象的でした。 何たって一文字ずつ教えてゆく名前当てクイズを出されましたからね。 普段冷静沈着なHibagon氏がクイズ出したくなっちゃうくらいにレアなのです。 でも何だろう、回答を待っている彼の目は子供のように輝いていましたね。


■ 2018年07月29日 撮影

子実体を拡大です。子嚢殻の少なさからも本種がかなり小さい種であることが分かるかと思います。 写真で見ると大きいように見えますが、実際には子実体の高さが2cmくらいしかありません。 ただ以前どろんこ氏が見たものに比べると小さめのようです。


■ 2018年07月29日 撮影

一つの宿主から2本の子実体が出ていました。 本種は比較的しっかりした肉質ですが、地下部、特に宿主直近ではかなり脆い印象が有ります。 浅い場所に種子が有るためギロチン率は低いですが、採取の際は少し土を残して掘り取ったほうが良いかも。
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