★Tolypocladium sp. (ジュウゴホウシタンポタケ)

■ 2024年06月02日 撮影

めたこるじぃ氏が本州で初めて発見したとの報告を受け、 Skypeメンバーで見たい見たい!と押しかけることになりました。 今まで南西諸島でしか見付かっていなかった「十五胞子短穂茸」です。 何じゃこの和名?って思われそうですが、ぶっちゃけソレ以外に表現のしようがありません。 地中に埋もれたツチダンゴ類に感染する、いわゆるタンポタケ系の菌生冬虫夏草ですが、 色々とオンリーワンな性質を持つ魅力的な種です。

今回のめたこるじぃ氏の発見から得られた情報が無いと気付くこともできなかったんですが、 何と2019年に千葉県で発見されていたんです。 しかし発見者さんはヌメリタンポタケと勘違いされたようで、そのままスルーされていました。 画像検索すると特徴的な写真が出て来るので気になる方は探してみてはいかがでしょうか? ちなみに論文が出ていないので種小名未決定です。和名も仮称のような状態ですね。


■ 2024年05月18日 撮影

実はTOP写真を撮影したのは訪問2回目で、1回目は5月中旬でした。 この日採取したサンプルは常在菌に負けて腐ってしまったため胞子観察は失敗。 時期的にギリかと思い再訪問した結果、この子実体が健在だったので採取させていただきました。


■ 2024年06月02日 撮影

5月18日にはまだ小さかった奥に見える2個体は6月にはこんなに伸び上がっていました。 子実体は全体的にオリーブ褐色系で統一されており、 結実部は褐色が、柄は基部に行くほど黄色が強くなる傾向があります。 また全体像としては柄の太さに対して結実部が小さいことと、 結実部が扁平であることが基本的な形態であることが分かります。


■ 2024年06月02日 撮影

雨の中での採取だったので宿主が濡れていますが、Elaphomyces節のタンポタケです。 ただし私の地元で見るアミメツチダンゴ系ではないようですね。 個人的に気になったのは発生の仕方なんですが、これは後述しますね。


■ 2024年06月03日 撮影

翌日に胞子を自然放出してくれたので、無事クリーニングして黒バック撮影できました。 水で洗浄してしまうとその刺激で胞子を一気に吹き切ってしまうことがあるので、その対策です。 注目すべきは発生の仕方。菌生冬虫夏草は一旦側面から発生して上に伸びる種が多いんですが、 本種は迷い無く天を突くように真上から発生する傾向があります。 他の種でも当然ありますが、本種はほぼ例外無くこの発生スタイルでした。


■ 2024年06月03日 撮影

子実体は典型的なタンポ型で、結実部がやや扁平なのが可愛いですね。 柄にはだんだら模様があります。ヌメリタンポタケに似ていると言われますが、 個人的には秋に発生する本家タンポタケのほうが似てると感じました。


■ 2024年06月03日 撮影

結実部を拡大してみました。色は褐色で表面には子嚢殻の頂孔がビッシリ。 子嚢殻は埋生で先端部だけがツンと飛び出しています。 ヌメリタンポタケはこの突出の周囲も緩やかに盛り上がるので、 やっぱりこの突出具合は本家無印タンポタケなんかに近いですね。


■ 2024年06月03日 撮影

本種の最大の特徴は当然ながら和名にもなっている胞子なんですが、 個人的にはソレのに匹敵するレベルのオンリーワンな性質だと思ったのがこの基部の構造です。 まるで宿主のツチダンゴをガシッと鷲掴みするかのような重厚な基部!これは見たこと無いですね。 この性質は子実体の形態に関係無く共通のようで、ヒョロヒョロの子実体でもこの基部は変わりません。


■ 2024年06月03日 撮影

詳細な観察のために子実体を宿主ごと真っ二つにしてみました。 外見的な配色は確かにヌメタン寄りですが、内部は純白


■ 2024年06月03日 撮影

結実部の断面です。柄と結実部で肉質に境界が存在しており、結実部の肉の密度が低いですね。 この結実部の断面にも特徴がある種が存在するので要注意。 子嚢殻は埋生で結実部表面に埋もれており、断面を作るとその様子が良く分かります。


■ 2024年06月03日 撮影

宿主はElaphomyces節のツチダンゴなんですが、外皮断面に大理石模様が無いんですよね。 地元では見ないタイプな気がします。あまり見付かっていないのも宿主が影響しているのかも? もう1つ気になったのは発生部位。突き破っている範囲が意外と狭いんです。 と言うことは発生後に肉が発達して宿主を掴んでいるんでしょうか?何度見ても変な基部です・・・。


■ 2024年06月03日 撮影

これが見たかったんです!何としても見たかったんです! これが本種の和名の由来でもある15個の胞子から成る子嚢胞子です!

冬虫夏草に限らずこのテの数は分裂数が2のn乗個になるのが一般的。 そのため本来であれば細胞数は16個になるハズ・・・なのですが、 多少の未分裂はあるものの15個を超えて来る胞子は全然見当たりません。 このような性質を持つ菌生冬虫夏草は本種くらいのものでしょう。


■ 2024年06月03日 撮影

分裂後の二次胞子なのですが、こうなるとタンポタケと何ら変わりませんね。 紡錘形で内部には複数の油球様内包物。両端の細胞は弾丸型になります。 ただたまーに「あれ?お前長くね?」って長さの二次胞子が混ざってたりするので、 もしかして細胞が1つ少ないのは何かしら未分裂の法則があるのかも?

まだ謎だらけの種ですので当然ですが食毒不明であり薬効があるかも分かりません。 そもそも珍しすぎるので食べるとかそう言う問題じゃないですからね? もしそれっぽい基部のタンポタケを見付けたら胞子を確認してみてください。

■ 2024年05月18日 撮影

初めて出会った日に撮影した理想的な発生状態。可愛すぎて写真撮りすぎました。 だって・・・こんな生え方、卑怯やん?


■ 2024年05月18日 撮影

短めのタンポ型子実体が3つ並んだ非常に見応えのある発生状態です。 断面作成と採取をさせていただいたのですが、この段階で気付くべきでしたが、 良く見ると1番左の結実部がすでに傷み始めているんですよね。

だって・・・こんな生え方、卑怯やん?


■ 2024年05月18日 撮影

断面作成は地味に苦戦しました。別に地下部が細根状でも深くもないんですが、 癒着した宿主から出ちゃってたんですよね。立体感は断面作成の天敵。


■ 2024年05月20日 撮影

2日経ちましたが胞子を吹く様子無し。また明らかに菌の腐敗する悪臭を発し始めたため、 胞子観察は断念して凍結乾燥に回しました。無念です・・・。 ちなみに奥に見えるツチダンゴだけは癒着していませんでした。


■ 2024年05月20日 撮影

結実部を拡大してみましたが、良く見ると結実部表面の子嚢殻が突出しておらず、 結実部表層に微細な亀裂が入り始めています。 恐らく子嚢殻形成のスイッチが切れてしまったのでしょう。 やはり確実に胞子を吹きそうな子実体をしっかり選ぶべきでした。反省です。


■ 2024年05月20日 撮影

宿主と子実体基部を拡大してみました。個人的には「アイアンクロー」と呼んでいます。 この宿主をがっつり掴んでいる感じがもう好きすぎて堪りません。 元々直根状で強度は十分だと思うんですが、何でこんな形状になるんでしょうね?



■ 2024年05月18日 撮影

このような細身の子実体だと確かにヌメリタンポタケに似ていますね。 色合いも凄くヌメタンっぽいです。しかし当然胞子は15個ですし、 細くてもゴツい基部は健在。むしろ現地での同定には基部の確認が重要ですね。

■ 2024年06月15日 撮影

まためたこるじぃ氏が珍しい菌生冬虫夏草を見付けたとのことで案内していただくことに。 その前哨戦として前回本種を見たフィールドをチラ見したのですが、 今度はしんや氏が前回とは別の場所で発見!意外と分布が広いことが判明です。

■ 2024年06月15日 撮影

しんや氏が作成した断面を撮影させていただきました。 やっぱこの怪獣の脚みたいな基部が堪んねぇ! 流石に胞子を噴出している子実体が多く、そろそろシーズンオフなのでしょう。
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